2026年4月9日、木曜日。前年覇者ローリー・マキロイの組に、アマチュアのメイソン・ハウエルが入った。前年の全米アマチュア選手権の優勝者である。前年のチャンピオンと全米アマの王者を、最初の2日間同じ組で回らせる。マスターズに長く続く慣わしである。
この大会を創ったボビー・ジョーンズは、アマチュアとして選手権を戦い、28歳で競技を退いた。その後も、プロとして賞金を懸けて戦うことはなかった。マスターズの随所に残るアマチュアの席は、ここがその人の大会であることを、いまも思い出させる。
大会の全体像はマスターズとは ── 緑の聖域オーガスタが紡ぐ、ゴルフ最高峰のドラマに、ジョーンズの生涯は球聖ボビー・ジョーンズ ── 頂点までの28年とマスターズを創った男 ── ボビー・ジョーンズ、引退の先にあった生涯に譲る。
ただのゴルフと、トーナメント・ゴルフ
ジョーンズが1927年から1935年にかけて新聞に書いたコラムは、『ゴルフのすべて』(永井淳訳)として読める。その一章は、こう始まる。
「ゴルフにははっきり異なる二つの種類がある――すなわちただのゴルフとトーナメント・ゴルフである。ただのゴルフはあらゆるゲームのなかで最も楽しく、仲間と一緒にやるのに適した娯楽である。一方トーナメント・ゴルフはスリリングで、悲痛で、ひどくハードな仕事である」
── ボビー・ジョーンズ(『ゴルフのすべて』永井淳訳、ゴルフダイジェスト社)
続けてジョーンズは、ゴルフ以外に職業や仕事を持つ人間が、競技者として他の出場者と同じ水準を保つのは年々難しくなっている、と書く。弁護士として働きながら選手権に出ていた人の、実感でもあったろう。
同じ章で、若い頃にもっとも勝ちにくいと信じていたのは全英アマチュア選手権だった、とも振り返っている。決勝にたどりつくまでに18ホールのマッチを七つか八つ勝ち抜かなければならず、ほとんど無名の選手による大番狂わせの可能性が常にある。トップ・プロならこの試練にどう耐えるか見てみたいものだと思った、と。1930年にジョーンズが制した4つのタイトルのうち、2つはアマチュア選手権である。アマチュアの競技を、プロの大会より軽いものとは見ていなかったことがうかがえる。
第1回大会の招待状
1934年の第1回大会に招かれたのは、英米のオープンとアマチュアの優勝者、アマチュアの対抗戦であるウォーカーカップの代表などであった、と杉山通敬の評伝は伝える。アマチュアは、はじめから招待の柱の一つだった。
2026年大会の出場資格にも、全米アマの優勝者と2位、全英アマ、アジアパシフィックアマ、ラテンアメリカアマ、全米ミッドアマ、全米大学選手権(NCAA)個人戦の各優勝者が並ぶ。世界ランキングでは測れない選手たちである。
クロウズ・ネスト
招かれたアマチュアのために、クラブハウスの3階に「クロウズ・ネスト」と呼ばれる部屋がある。ベッドは5つ。ジャック・ニクラウスもタイガー・ウッズも、アマチュアだった頃にここで眠った。本條強によれば、1995年に初めて出場したタイガーは、のちにメンバーへ礼状を書き、この部屋は生涯心に残るだろうと記している。日本の選手で初めてここに泊まったのは、2019年の金谷拓実だという。
予選を通ったアマチュアのうち、最上位の選手には銀のカップが贈られる。1952年から続く「シルバーカップ」である。2011年、東日本大震災の1か月後にこのカップを手にしたのが、19歳の松山英樹であった。その10年後の優勝までは日本人選手とマスターズ ── 85年越しのグリーンジャケットに書いた。
アジアへ、中南米へ、女子へ
アマチュアの席は、21世紀に入って外へ広がった。2009年、マスターズとR&A、アジアパシフィックゴルフ連盟が、アジアパシフィックアマチュア選手権を創設する。優勝者はマスターズに招かれる(全英オープンへの招待は2018年から)。2010年にこの大会を制し、翌年のオーガスタに立ったのが松山である。
同じ形で、2015年にはラテンアメリカアマチュア選手権が始まった。こちらはマスターズ、R&A、USGAの3者が共同で創設した。さらに2019年、オーガスタ・ナショナル女子アマチュアが加わる。最終ラウンドはオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブで行われ、2021年には17歳の梶谷翼が優勝した。
1975年の全米アマ王者
女子アマの創設を2018年に発表したのは、前年に会長となったフレッド・リドリーである。リドリーは1975年の全米アマチュア選手権の優勝者で、1976年から3年続けて、アマチュアとしてマスターズに出場した。一度もプロに転向せず、弁護士として働いてきた。
弁護士で、プロとして戦うことのなかったゴルファー。ジョーンズと同じ二つの顔を持つ人が、いまこの大会を率いている。
アベレージゴルファー
『ゴルフのすべて』の最後には、原書の刊行時に書き下ろされた結びの章がある。そこでジョーンズは、過去30年に活躍した偉大な選手たちの名を挙げて順位をつけることを避け、彼ら全員のゴルフへの貢献に感謝すべきだと書いた。そして、こう締めくくっている。
「結局ゴルフを支えているのはこの人たち、アベレージゴルファーなのだから」
4月のオーガスタで、世界のトップ・プロの組に、大学生や、仕事を持つミッドアマチュアが加わって歩く。勝つ見込みの薄い彼らのために部屋を用意し、銀のカップを用意する。プロの祭典の片隅に、ジョーンズが「ただのゴルフ」と呼んだものの居場所が、いまも残されているのだろう。
参考文献
主要参考文献
ボビー・ジョーンズ『ゴルフのすべて』永井淳訳、ゴルフダイジェスト社(写真入り新装版。原書は1927〜1935年の新聞コラムに書き下ろしの結びの章を加えたもの。邦訳は約1割を省いた抄訳) 杉山通敬『マスターズを創った男 球聖ボビー・ジョーンズ物語』廣済堂出版、1998年 本條強『マスターズ ——ゴルフ「夢の祭典」に人はなぜ感動するのか』ちくま新書、2021年
書籍内引用
ただのゴルフとトーナメント・ゴルフ、全英アマについて(『ゴルフのすべて』p.280、p.299) アベレージゴルファーについて(同書 p.340〜341) 第1回大会の招待選手(杉山上掲書、p.216〜217) クロウズ・ネストとタイガー・ウッズの礼状、金谷拓実の宿泊(本條上掲書、p.033〜034)
補足参照
Masters Tournament 公式サイト〈https://www.masters.com/〉(2026年10月閲覧) Asia-Pacific Amateur Championship 公式サイト〈https://aacgolf.com/〉(2026年10月閲覧) Sports Illustrated「Who’s Invited to the Crow’s Nest? Meet the 7 Amateurs Competing in the 2023 Masters」2023年3月29日 The Golf News Net「Here are the 27 different ways to qualify for a 2026 Masters invitation」2026年3月27日 PGA Tour「2026 Masters: Tee times, groupings announced for Rounds 1-2」2026年4月7日